1957 – 1959 BMW 600
1957年、前面ドアといったイセッタらしさを残したまま、ボディおよびエンジンの大型化を果たした600が発売されます。正式名称にイセッタは付きませんが、600をイセッタと呼ぶことに抵抗がある人は少ないと思われます。
下は、600のプロトタイプとされる画像ですが、真偽は定かではありません。
画像を見る限り、前面ドアではありません。左前ドアと右後ドアの組み合わせだったのでしょうか。
ホイールベースを150mm延長でリアシートを増設、リア・ドアを右サイドに1枚追加。
前モデルで特徴的だった後2輪のナロートレッドは拡大され、あわせてディファレンシャルギアを装備。フロントサスはイセッタと変わらぬ簡素なデュボネ式が継承されましたが、リアサスにはリジッドからセミトレーリングアームの独立懸架方式に変更されました。(その後のBMWで象徴的に使用されづづけるセミトレーリングアーム式サスペンションの初採用)
エンジンはR67/3用水平対向OHV2気筒(594cc/28HP)を流用、582cc/19.5HPにデチューンし、強制空冷用ファンを追加して搭載。最高速度は103 km/hに達しました。
あの美しいシリンダー&シリンダーヘッドは無粋にもカバーで隠されています。
トランスミッションは4速MT(フルシンクロ)、
あるいはオートクラッチ( Sax-O-mat/サキソマット)も選択可能。
Sax-O-mat by Fichtel & Sachs AG
●運転席&メーター
US仕様のMPH表示でフルスケールで90mph(=144km/h)と80mph(=128km/h)の2種類の存在をを確認。公称100km/h程度の最高速に対し、ちょっと多めの数字。
シフトレバーとパーキングブレーキレバーがイセッタではボディ側面に配置されているのに対し、600では通常の自動車と同じフロア中心に配置されています。
リアシートは車体サイズからすると驚きの広さ!
イセッタ250/300の全面ドアの裏にはポケットしかありませんが・・・
600のドアの裏にはスペアタイヤが鎮座しております。
600のライセンス生産はアルゼンチンのデ・カルロ(DE CARLO)によって行れてました。生産期間は1959年から60年までの足掛け2年でわずか1,413台に過ぎませんでした。同車は同1960年から後継の700の生産を開始します。
1955年から1962年までの8年間に、BMWは16万台ものイセッタを製造しました。50年代のBMWは、イセッタの他には、その対極にある大型高級車しかラインアップに持たず、その高級車路線の不振で経営危機状態にありました。イセッタはその頃のBMWを経済的に支えるという重要な役割を果たしました。
501、502(1952~64年) | 503(1956~59年) |
507(1956~59年) |
一方、600のデビュー時期は、ミニマム装備のミニカーから小型車へ需要が急速に移行しつつあった時期にぶつかり、生産台数はイセッタほど伸びることなく、1957年から1959年の足掛け3年間で3万4千台程度で終わりました。
600のコンポーネントをふんだんに流用したものの、ガワは『きちんとした』小型車のなりで世に出た後継の700はBMWにとって空前の大ベストセラーとなり、BMWの経営を完全に立て直しました。
600は、前モデルのイセッタと後継モデルの700の両方の要素を持った車で、商業的には両者に見劣りするも、BMWにおけるミニマムカーから小型車への遷移において、技術的にも市場的にも、上手いつなぎ役を果たしたと評価できましょう。
●Fomula Junior BMW 600 by Siegfried Linke
ワシントン州シアトル在住のジークフリード・リンケ(Siegfried Linke)氏とその友人が製作した BMW 600 のフレーム、足回りを流用して仕立てられたフォーミュラ・ジュニア用レーサー。
1963年から64年にかけて、およそ8台製作し、1964年から66年初頭の米国北西部地域の様々なサーキットでレース活動をします。まもなく、フォルクスワーゲンのフラット4エンジンを使ったフォーミュラVeeが盛んになるとそちらに活動をスイッチ。
製作に関しては、安価なエントリーレベルのレーサーにふさわしいレベル。600からボディを下ろすと、フレームをモディファイ、ロールバーを取り付け、FRP製のボディカウルをかぶせたもの。すべての車両で、基本的にストック・エンジンのまま。
それで直線では120mph(およそ190km/h)が出たといいますが、市販600で100km/hちょっとの最高速、後に出る、排気量も100cc多く、はるかにハイチューンのBMW本社製レーサー700RSですら200km/h出るか出ないかなので、かなり根拠の怪しい、楽観的な数字と思われます。
– [ 3 ] につづく –