1959 – 1965 BMW 700
50年代、常に経営危機のさ中にあったBMWは、イセッタのささやかな成功で延命を果たしていたものの、1959年、ついにダイムラー・ベンツによる吸収合併が避けられないものとなりました。これは実行寸前に回避されますが、その同じ年にデビューした700は、総生産台数18万8千台とそれまでのBMW車で最多を誇り、この700の成功と、続いて1962年にデビューした”ノイエクラッセ(ニュークラス)”1500(1800、1600、2000とバリエーション展開)の立て続けのヒットで、BMWは深刻な経営危機から完全に脱することになります。
700は、フロアパネルやサスペンションなど多くのパーツを600から流用しつつも、ボディは一新、近代的なスチール製モノコック構造が採用(BMW初)され、『普通の』自動車の形となりました。
そのボディ・デザインはジョバンニ・ミケロッティによるもので、クーペとカブリオレの架装はバウアー社によって行われました。
700のエンジンは、600用のボア74mm・ストローク68mmの582ccエンジン(19.5HP@4,500rpm:33.5HP/L)を、ボア78mm・ストローク73mmの697ccにスケールアップしたものです。基本的に以下2つの仕様があります。
ソレックス・シングルキャブ仕様のエンジンは一連のセダンとクーペのベーシックモデルに使用されました。
1959年から1962年までは30HP@5,000rpm(43.0HP/L)の出力で、1963年よりインレットバルブの拡大で32HP@5,000rpmと若干の出力向上がありました。
ソレックス・ツインキャブ仕様は、クーペのスポーツモデルとカブリオレに使用され、シングルキャブ仕様に対し、ツインキャブ化、圧縮比向上(7.1:1→9.0:1)、カムシャフト変更などによって、出力を40HP@5,700rpm(57.4HP/L)まで向上させています。
●出力&トルク曲線
ツインキャブ仕様が40HP@5,700rpm、5.2kgm@4,000-5,000rpm、シングルキャブ仕様が32HP@5,000rpm、5.1kgm@3,400rpmといったところです。
●最高速度曲線
40HPのスポーツクーペ(SC)が134km/h、そのロングホイール版(LS Coupe)で128km/h、32HPのスタンダード・クーペ(C)が120km/h、ロングホイール版セダン(LS/LSL)で114km/hといったところでしょうか。
●1959 – 62 700L (Limousine)
1959年のフランクフルトショーでクーペと一緒にに発表されたオリジナル・セダン。
リアオーバーハングに搭載されるエンジンはシングルキャブ30HP仕様。
700L
●1961 – 62 700LL (Lusxs Limousine)
700Lの豪華版が700LLです。
700Lとは、ツートン・ボディカラー(オプション)、ボンネットやフェンダー上のクロムメッキのトリムなどの有無で区別します。
700LL
●1963 – 65 700LS
700Lの後継はホイールベースで160mm、全長で320mm拡大した700LSです。
エンジンは700Lと変わらないシングルキャブ仕様ですが、32HPと若干の出力向上があった方となります
700LS
●1963 – 65 700LSL (LS Lusxs)
700LSの豪華版が700LSLです。
700LSL
●1959 – 64 700 Coupe
1959年のフランクフルトショーでセダンと一緒に発表されたオリジナル・クーペ。
エンジンは62年モデルまで30HP仕様で、63年モデルより32HP仕様が使用されました。
700 Coupe
●1960 – 62 700Sport / 63 – 64 700CS (Sport-Coupe)
オリジナルモデルから一番最初に派生したバージョン。当初は700Sportと命名されていましたが、1963年に700CSと改称。
ツインキャブ40HP仕様のエンジンを積んでいるほか、放熱リブ付きのオイルパンとリアサスにアンチロールバーを持ちます。最高速度135km/h。
クーペのスポーツモデルのみ、セミオートマのSax-o-matを選択することができました。
●1964 – 65 LS Coupe
クーペは1964年からロングボディを採用します。同時にエンジンも32HP仕様からツインキャブ40HP仕様に変更されました。
LS Coupe
●1961 – 64 700 Cabriolet
700 Cabriolet
エンジンは700CSと同じツインキャブ40HP仕様です。
●Racing 700
700Coupe/Sportはデビュー当初より、BMWワークスやプライベーターの手によって、世界中の、ラリー、ヒルクライム、クローズドサーキット、あらゆるレースで大活躍しました。
700Sportのメーカーによるレース仕様車が60HPを誇る700GT(1960年)です。
多くのドライバーが700レース仕様で経験を積み、結果を残しました。
- Hans Stuck / Sepp Grieger(1960 ホッケンハイム12時間クラス優勝)
- Hans Stuck(1960 ドイツヒルクライム選手権優勝)
- Walter Schneider / Leo Levine(1960ニュルブルクリンク6時間クラス優勝)
- Walter Schneider(1961 ドイツサルーンカー選手権優勝)
- Jacky Ickx
- Hubert Hahne
- Burkard Bovensiepen(アルピナ創設者)
- Alexander von Falkenhausen(BMW エンジン開発者)
- Jochen Neerpasch(BMW Motorsport GmbH CEO)
1961 Driven by Alex von Falkenhausen
1961 – Monte Carlo Rally driven by Metternich/Hohenl
Jacky Ickx(国籍:ベルギー) デビュー戦は、63年4月28日フランスでBMW 700を使用しました
1963 Hillclimb of La Roche driven by Jacky Ickx
1963 Tour De France driven by Jacky Ickx
●1960 700 Rennsport Coupe #38
Flugplatzrennen Innsbruck 1960
Hans-Joachim Stuck
1960年 インスブルック 飛行場レース
ドライバー ハンス・ヨアヒム・シュトック
●1961 – 1964 700RS / 700RS-2
700エンジンを使ったヒルクライムレースを想定した純レーシングモデル。
70HP以上にチューンされたエンジンをミッドシップにマウント。軽量なチューブラーフレームとアルミニウム製ボディの組み合わせで車重は630kg、最高速は160km/h~200km/h
初レースはOn 15 June 1961年6月のRossfeld mountain のヒルクライムレース。
厚さでクラッチにトラブルでリタイア。
Hill Climb Freiburg Schauinslandでは、開発ドライバーでもあったHerbert Linge and Werner Schneiderはアバルトを破って初優勝を飾りました。
61年6月独ロスフェルト・ ヒルクライム でデビューしました
開発目的は
当時人気あったヒルクライム・レースでの勝利ですが、その他も含めると
国際レースで約22勝が達成され
Hans Stuckは the World Sportscar subclass to 850 クラスに参戦。
- シリンダー・ヘッドはシャフト+ベベルギア駆動のOHC
- デロルトφ36キャブをツインで装備
- ミッドシップマウント
- 5(4?)速マニュアルトランスミッション
- 全輪ドラムブレーキ
- 19台製造されたと言われていますが、現存するのは2台。(うち1台はBMWが所有)
700Sport
- 唯一販売された700RSは、BMWディーラーの Willi Martini 対する2台のみです。彼はそれをフェラーリ風に改造します。
1961年、Hans Stuckはドイツ、オーストリア、イタリア国内ヒルクラム選手権3冠を得て、ヒルクライムレース界に君臨しました。
1961 Hans Stuck @ Australian Hillclimb Championship
1961 Gaisbergrennen Saizburg
50年台後半にBMWサイドカーのワークスレーサーであったWalter Schneiderは2輪レース活動を引退した1959年以後、BMWの後押しを受け700Sportで4輪レースに参戦、翌1960年、ワークスチーム入りを果たします。61年、700RSのシートを得ると、ドイツ国内のほか、スイスやオーストリアのヒルクライム選手権を席巻します。
1961 Walter Schneider
Alex von Falkenhausen は自身のレーシングキャリアを1964年のNeubibergのレースで閉じることになりました。
1964 Alex von Falkenhausen @ Neubiberg
●Martini BMW
Willi Martini Adenau (1925年 – 2001年)はBMWのディーラーを営みながら、一レースエンスージアストとして、ニュルブルクリンクのグランドスタンド裏にワークショップを構え、そこで一連のレーサーを製作し、ニュルブルクリンクで開催されるレースを主戦場に活躍していました。
60年および70年代のドイツのレーシングシーンにおいて伝説的な存在で、メディアではドイツのアバルトと呼ばれていました。
Willi Martini が自ら設計した最初のレーサーは、1962年の Martini-BMW 700 Type 1です。プロトタイプGT850ccクラスのホモロゲーションを取るため、1962年当時の価値で9,600DMで市販もされました。スチールチューブラーシャーシ、FRPボディはWilli Martiniによるオリジナルで、700用フラットツイン40HPを 48~55HP 程度にチューンしたエンジンを積んでいました。
その後、そのシャーシは プロトタイプGT1000ccクラスFWD の Austin Mini のエンジンを積んだバージョン、プロトタイプクラスBMWの4気筒1800ccにも流用されました。
1963年5月 ADAC ニュルブルクリンク1000kmレース
Willi Martiniは3台のMartini BMWをGT850クラスに、1台のVOLVO PV444をGT2.0クラスに出走させます。
3台のMartini BMWのうち、#79号車のみ700RSのDOHCヘッドのエンジンが与えられ、#77、#78号車はOHVヘッドのエンジンでした。
DOHCヘッドの本命#79の Walter Schneider / Anton Fischhaber 組は予選で最もよいタイムを出すも、本選は7ラップでリタイアに終わりますが、#78の Heinrich Georg Hülbüsch / Bialas 組がクラス優勝(総合25位)、#77の Heinz Schreiber/Hubert Hahne 組がクラス2位(総合29位)と、GT850クラスで1-2フィニッシュを勝ち取りました。(ちなみにVOLVOは総合21位、GT2.0クラス*位)
GT850クラス2位の#77
#77のインから追い越しをかけるのは総合優勝した Surtees / Mairesse 組のワークス・フェラーリ250P。
1963年7月 ADAC ニュルブルクリンク 12時間ツーリングカーレース
One of the three prototypes launched Martini
1963年9月 ADAC ニュルブルクリンク
ロードカートリムに仕立てられたMartini BMW。
1964 Martini Type 4
80HP tuned BMW 700 engine / BMW 700RS tubuler space frame chassis
1964 Martini Type 4
80HP tuned BMW 700 engine / BMW 700RS tubuler space frame chassis
1964
1964年5月 ADAC ニュルブルクリンク1000kmレース
1964#108
1965
1965年5月 ADAC ニュルブルクリンク1000kmレース
1966
Martini BMC Cooper
Martini Glas
1966 – 1967 Fomula M
ロードカートリムに仕立てられたMartini BMW。
1964 Martini Type 4
80HP tuned BMW 700 engine / BMW 700RS tubuler space frame chassis
●1960 BMW Lotus 700RS Spider Bergrennwagen
BMW 700 エンジンと Lotus 23のチューブラーフレームを組み合わせたレーシングマシン。
●1963 Shirdlu Sports Racer
BMW 700 スポーツクーペのエンジンと LeGrand サスペンションを使用して、工業技術者の Frazier Sibbald、サーフボード製造業者の George Olsen、Howard Blissの3人によって. 造られました。
Frazier Sibbald のドライブで、1966年 SCCA National Championships at Riverside でクラス 5位に入賞しました。
●1959 Höhreich BMW 700RS Sport Prototype
●LAC Racing Team
●HVB
●1963 Legrand BMW Formula 4 Junior
●BMW 700 powered Formula car
●1964 – 1965 De Carlo 700SL
BMW 700はベルギーやアルゼンチンでライセンス生産されました。アルゼンチンで生産されたものがDe Carlo 700です。BMW 600のライセンス生産から引き続いての生産です。
当初はBMWと同じエクステリア・デザインで生産していたのですが、時代の流れでミニカーの販売が低迷するようになると、1964年、エクステリア・デザインを独自に変更することでテコ入れを行いました。デザイン変更に伴い名称が700SLとなりました。
その努力もむなしく、同車の生産は1965年12月に終了、生産台数は700とSL併せて9,060台程度とされています。700SLの次は、より大きな排気量(1.3L)を持つSIMCA Arianeのノックダウンを(仏SIMCAに吸収されて?)SIMCA名義で行いました。
新デザインのお手本はルノー8にあるようです。せっかくのミケロッティ・デザインを台無しにしてしまった以上の感想は持てません・・・
●1963 BMW 700 by Luigi Colani
Luigi Colani
●ALTA 700
BMW 700のエンジン、トランスミッションを流用
●1962 – 1966 Fahr / Chrysler Farmobil 700L
ファーモビル(Farmobil)はドイツの農業機械メーカーファー(Fahr)によって造られた、BMW 700のエンジン、トランスミッション、ブレーキ、ホイールを流用した低コストの農業用トラックです。
1956年に造られた最初のプロトタイプには Horex Emperatorのオートバイ用並列2気筒エンジンが積まれていましたが、振動とオーバーヒートの問題が出て、エンジンは不採用となりました。
1959年にプレス公開された2番目のプロトタイプは、BMW 600のエンジンとギアボックスを積み、丸みを帯びたボディに、イセッタと同じ前面オープンのドアを持っていました。
その次のプロトは700LSのエンジンほかコンポーネントを多数流用し、丸みを帯びたボディは変わりませんでしたが、賛否両論あった前面ドアは廃止され、通常の位置につけられた。ホモロゲーションをとるため15台のみ生産されました。
プレス成型の必要なプロトタイプの曲面ボディは、コスト低減のため変更され、量産版では、ボディはリブ付きのスチール平板の熔接組み立てとなり、フレームに熔接で接合されます。ドアは取り外し可能。フロントウインドルは可倒式。
ファーモビルはオーストリア、スイスではシュタイア・ファー(Steyr Fahr)として、ドイツとイタリアなどその他の国ではBMW・ファーとして売られました。
ファーはファーモビルの製造権をギリシャ人の Peter Kondorgouris に売却すると、彼はファーモビルを製造するためのFarcoという会社をドイツに設立しました。
Chrysler International がその Farcoを買収。さらにクライスラーはフランスのシムカを買収すると(1963年)、ドイツ・シムカに注力するために、ファーモビルは不要となったのです。それでもしばらくの間は、フランスではファーモビルはシムカを通じて販売されました。
製造は1962年から1966年までギリシャの Thessalonika で行われました。ギリシャはEECの一員でなかったため関税があり、値段を引き上げていました。そこでオランダ・ロッテルダムでの製造が計画され、アントワープにパーツデポが設立されましたが、1,000台よりもはるかに少ない数がテスト製造されたのみで、結局、それまででした。
オランダの製造計画では、高価なBMWのパーツに代え、DAF製パーツを使用すべく契約が進められましたが、DAFのPonyと競合するため、実現しなかったといわれます。
まもなくギリシャでの製造も終了してしまいます。
また、英国ルータースグループ(Rootes Group)がファーモビルに興味を示し、1965年、2台を輸入し、インプ製エンジンを積んでテストをしましたが、彼らの満足のいく結果は得られず、話は立ち消えになったということです。
●1974 – late 1990’s Faun Kraka
各モデルの関連とその時代
フロントサスペンションは最初期のイセッタ250から300、600そして700までデュボネ式独立懸架と全く変わっていないことが分かります。(なぜだか300でレイアウトに変更があり、600になって元に戻されています)
Isetta 250 front suspension
Isetta 300 front suspension
600 front suspension
700 front suspension
リアは600のセミトレをそのまま踏襲しています。
600 rear suspension
700 rear suspension
[ 4 ] につづく