今回は前回にお約束した切削フライホイールの細部をご紹介しましょう。

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 左がノーマル、右が切削加工されたものですが、いかに肉が削られているか一目瞭然でしょう。

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 注目すべきは、クランク軸に取り付けるためのスプラインが切ってあるインナーハウジングまでも大胆に削られていることです。この切削済みのインナーハウジング単体が、そこいら辺に転がっていたら、いかにドカのパーツに見慣れた人でも、即座にそのパーツであることを見抜くには決して容易でないほど、見事に『変形』しているといえましょう。

 切削済みフライホイールに、大きな穴ひとつ、小さな穴が5つありますが、これは重量バランスを取るために開けられたものです。

 ちなみに、スプライン周辺にみえるパーツ(左には付いていない)は、始動時、セルモーターの回転を、フライホイールを通じて、クランク軸に伝えるワンウエイクラッチです。これが磨耗して滑り始めるトラブルがあることはご存知かと思われます。

 まあ、クラッチですからいずれ磨耗することは避けられないのものなのですが、この辺は、エンジンの基本設計のほとんどを同じくしながらも、年を追うごとにボアや圧縮比の増大していく一方、設計当初からの変わっていない(構造上の制約から変わることのできない?)箇所で、やはりクラッチ容量が不足しているのは否定できない事実ですね。

 最後にフライホール軽量化について当方の意見を述べて終わります。

 軽量化のメリットは、直接的には、エンジンの吹けあがりが鋭くなる(レーシー!!)、後輪出力の増大(フライホイールの回転に食われるエネルギーの重量差分が出力に回る)など。間接的には、車体の軽量化、上記ワンウエイクラッチへの負担の軽減、さらにはフライホイールの重量を支えるメインベアリングへの負担の軽減(ここはノーマルのままでも強度に不安のある箇所ではありませんが)などが考えられます。

 もちろんデメリットもあり、エンジンの回転落ちが鋭くなる、アクセル開度一定時やエンジン低回転時のエンジン回転が不安定になります。具体的には、アクセルオフにしたときに車体がギクシャクしやすく、不意のエンストが起きやすい、アイドル時のエンジン回転が安定しづらい・・・などなど。

 峠やサーキットのように、アクセルを開け開けで行くときはいいのでしょうが、町乗りで多いアクセル開度一定や減速によるアクセルオフ時に、エンジンはシビアな挙動を見せるようになります。趣味の乗り物だから、こういう気難しい味付けを御するのも楽しみのうち、と考えられる人には悪くない選択だと思いますが・・・

 こうなると軽量化のさじ加減が難しく思われますが、たとえば市販の社外品などを見ても、たいていの場合、明確な意図はないように思われます。単純に、フライホイールの材質をアルミに置き換えたら鉄との比重の差で70%弱の軽量化が達成された、それを使ってみたらなかなか悪くなかった、という以上のことを感じられなかったりしますね、私は。(それが悪いというのではなく、それくらいアバウトでも構わない、ということ)

 ただ、10~20%程度の軽量化では変化を体感しづらいので、メリット、デメリットがあるにせよ、明確な変化を望むのであれば、50%くらいの軽量化は欲しいところ。

 フライホイールの重さは、メーカーのコスト面での妥協の産物はではなく(むしろ軽く使ったほうが材料費が軽減される!)、十分なテストを経た後、最大公約数的にはこのくらいの重さが適切だろうと判断した結果でありますゆえに、その変更は当人の明確な狙いがあって行われるべきで、くどいようですが、変えれば変えただけ良くなるというものでないことをもう一度述べさせていただきます。

 逆に、重くするという判断もアリなわけです。(最近のドカはフライホイールも含め、低速時の乗りやすさを優先させてか、クランク周りの重量が以前よりも増加されている、という事実もあわせてご報告しておきます。これについては次回以降に言及いたします)

(つづく)