ずいぶんと場所をとっているエンジン置き場を整理してみようかと・・・思ってみたものの、整理そっちのけで、ついついパーツの細部に目がいってしまいます。

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 ドカのエンジンのいいところ・・・私が気に入っているところは、基本設計を変えずに長年に渡り熟成を重ねていった過程を、各年代のエンジンの細部をを眺めることで感じ取れるところです。(それゆえ、各部に世代を超えた互換性があります。)

 ちょうど、良い実例が転がっていますので、その熟成の過程、(チューナーにとって)絶妙な互換性を簡単にご紹介したいと思います。

 (1)クランクケースは、750F1初期型、後期型、400SS-Jr(’88-’89)を並べてみます。
 (2)クランクは、750F1、750SS、900SS(’92)。(これはちょっと興味深いですよ!)
 (3)ヘッドは750F1初期型、後期型、750SSを比較してみたいと思います。

 ここで、実物の比較の前にちょっと寄り道して・・・ある時期のドゥカティ・エンジンのボア、ストロークの変遷から、その熟成の過程を垣間見てみましょうか。

ラージケースとスモールケース

 パンタ系と呼ばれる、カムシャフトをベルトで駆動する空冷SOHC・2バルブ・エンジンは、

500 (BxS:74mm x 58mm)

から始まり、年月とともに、ボア、ストロークのどちらか、あるいはその両方が増大され、以下の進化?を重ねます。

600 (BxS:80mm x 58mm)、

650 (BxS:82mm x 61.5mm)、

750 (BxS:88mm x 61.5mm)

 その750ccを、ボア&ストローク同一の750ccの排気量のまま、水冷DOHC4バルブ化したものが、初期の水冷4バルブ・プロトタイプ・レーサーである748ie。そこからさらに排気量を増したのが

851 (BxS:92mm x 64mm)

です。851も当初は、クランクケースを空冷750ccと共有するワークスレーサーのみでしたが、スーパーバイク・カテゴリーのホモロゲーションを取るため、公道車として量産される際は、増大したボアに対し億弱となったクランクケースが新設計(シリンダースタッドボルト・ピッチとオイルパンの拡大)されて、市販されました。

 ここで、ドカの(タイミングベルト駆動)エンジンはクランクケースを2系統持つようになりました。(パンタ系をスモールケース、851系をラージケースと呼ぶことが多いです)

 大ベストセラーとなった

900SS (BXS:92mm x 68mm)

のエンジンは、意外に思われる方は多いかもしれませんが、クランクケースは851と同じです。900ssのエンジンは、851をベースに、ストロークアップしたクランクを与え、ヘッド&シリンダーを、空(油)冷2バルブに戻したものです。それゆえ、851と900SSは同じピストン径、92mmを有しています。

 一方、851は、ボアを2mmアップされ、

888 (BxS:94mm x 64mm)

となり、そこからストロークを2mmアップされ、

916 (BxS:94mm x 66mm)

となっています。

ボア&ストロークの組み合わせ/・ボアストローク比

 ざっくりと文字で説明したことを、分かりやすく表にあらわすとこんな感じにまとまります。

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 上の表の縦軸がボア、横軸がストロークです。表内の数字は、言うまでもなく、所定のボア、ストロークからなる排気量です。

 下の表は、ストロークをボアで割った数値、ボアストローク比といいます。

 ボアストローク比の意味するところは、ちょっと分かりにくいかもしれません。詳細は、以下のリンクをご参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%AF%E6%AF%94

 この表は見る人が見れば、いろいろ示唆的なものがあること請け合いですが、すべてをご説明するとあまりに長くなってしまいます。ここでは、触りだけでもご説明したいと思います。

 まず、ボアストローク(BS)比について。一番、注目していただきたいことは 0.70 という数値です。ボア1に対し、ストロークは0.7という比率は、スポーツエンジンの黄金率といえましょう。事実、日本製スポーツバイクのBS比も、多くがこの0.7前後にあります。(最近は、技術的なブレークスルーもあり、市販車ですら、よりビックボア方向、究極のレーシングエンジン、現代F1エンジンの持つBS比0.5近傍に近づきつつありますが・・・)

 歴代ドカにおいては、750(748)、851、916がズバリBS比0.7となっています。

スモールケース

 表の黄色の領域は、500で始まり750で終わったパンタ系(リアバンクが前方排気)、および、そのケースの基本設計を引き継いだ上で、吸気性能を安定・向上させるため、Vバンク間に吸気が集約され、後方排気となった、750SS、600SS、400SSなどの新世代モデルがふくまれる領域です。(スモールケース群)
 
 ちなみに前方排気の設計者は伝説的なファビオ・タリオーニ。それを後方排に手直ししたのは後任のマッシモ・ボルディで、彼は水冷DOHC4バルブの中心人物でもあります。

 このスモールケースのエンジン間では、年代、排気量を問わず、ヘッド、シリンダー、クランク、ミッション、その他補器類において、かなり高い互換性があります。

 言葉を変えれば、メーカーは、各排気量でエンジンを専用設計することを避け、多くの部品を共有したのです。また長い間、基本設計を変更することもありませんでした。

 これは単に弱小メーカーであったドゥカティに十分な開発資金がなかったゆえ、作ったところでコストを回収できるほどの生産台数を見込めなかったゆえ、と言ってしまえば元も子もありませんが、当初の設計が素晴らしかったゆえ、時代を超えて通用した、という説をファンとしては支持したくなります。

 スモールケースのミニマムは350ですが、これは当時のイタリア本国の免許(あるいは保険)制度の区切りが350ccであったため設定されたスケールダウン版です。同じストロークで400がありますが、これはいわずと知れた日本の免許制度に合わせ、350のボアを目いっぱい広げ400としたものです。

ラージケース・4バルブ

 オレンジの領域が、851からはじまったラージケース群です。ラージケースは前述したとおり、マッシモ・ボルディの作です。

 ラージケースは、750ccまでのスモールケースに対し、よりも大きな排気量に対応するための改良がなされ、特に大きな相違として、スタッドボルトのピッチが拡大されているため、スモールケースとの間に、大物パーツであるヘッド、シリンダーの互換性はありませんが、ラージケース間においては、スモールケース同様、年代、排気量を問わず、各パーツにおいて高い互換性があります。

 ちなみにラージケースに載せられたDOHC4バルブのヘッドですが、基本的なデザインの着想を、英国製レーシングエンジン、コスワースFVAから得ています。(FVAはコスワースによって、F2用に用意された直4エンジンで、そのヘッドを2基用いてV型8気筒にしたものが、有名すぎるF1エンジンの傑作、DFVです。)

 ラージケースにも916のスケールダウン版748がありますが、これはレースカテゴリーに合わせ設定されたものです。750F1と同じボア、ストローク値(BS比0.70)が採用されています。

 926や955は公道市販車には存在しませんでしたが、レーサーで採用されておりました。アフターマーケット製のボアアップキットでこれら排気量が用意されていました。これらは水冷4バルブのボアとストロークの順列組み合わせを語る場合に欠かすことのできない排気量です。

ラージケース・2&3バルブ

 濃いオレンジの領域はラージケース・2(&3)バルブ系の流れです。904cc(900SS、M900)、944cc(ST2)、992cc(DS1000、ST3)があります。

ラージケース・テスタストレッタ

 ピンクは、DOHCヘッドがコンパクト化されたテスタストレッタですが、各排気量の表での位置も飛び飛びで、前世代の遺産に影響を受けないボアとストローク値が選ばれています。(設計者が変わっています。)

 749に関しては、Rエンジンとその他のエンジンで、同じ排気量であるにもかかわらず、異なるボア、ストローク(90mm x 58.8mmおよび94mm x 54mm)を設定していて、なかなか芸が細かいですね。

 テスタストレッタに関しては、なにより、そのBS比に着目してください。すべてが前世代の黄金率0.70を下回っています。特にRモデルは749、999ともBS比0.57と、ついに0.50台に突入しています!!

なお、レース・ホモロゲーションモデルであるR系において、BS比は、999、749とも0.57と完全に同一しており、一方、ノーマルモデルである999(998)、749では、それぞれ0.64と0.65とほぼ同じ数値に設定されております。これらの事実から、テスタストレッタは、用途に適したBS比を先に決めてから、排気量よりボアとストロークが逆算された、と考えて不自然ではないでしょう。

 最後に、水色の個所は、2007年のニューモデル、さらにヘッドがコンパクトになった1098です。

 まだまだ書きたいことはありますが、長くなりました。表の解説は以上で終わりにしたいと思います。