270度クランク
#以下ヤマハの技術資料より抜粋
“GENESIS思想”を受け継いだコンパクトなツインエンジン
■背 景
エンジンのトルクは、爆発力が生み出すトルクと、ピストン上下動の慣性力が生み出すトルクの双方が重なり合う“合成トルク”として絞り出されています。この合成トルクは多気筒エンジンの場合、各気筒の点火順序や点火間隔でキャラクターが異なってきます。
一般に4ストローク2気筒直列エンジンは、中・高回転で有利な180度クランク、またはツインの爆発を感じやすく低速トルクを搾り出しやすい360度クランクが採用されています。一方で、90度V型2気筒は、クランクねじり振動特性とのバランスで不等間隔爆発(270度クランクなど)が採用され、V型2気筒の鼓動が強調されます。ただ、V型2気筒は前後長が長く後方シリンダーの冷却でも不利となり、高性能スポーツモデル向けエンジンとして成立させる場合、鼓動感と軽量スリムさの両立がテーマとなっていました。
■仕組み・特徴
1995年誕生のエキサイティング・ビッグ・ツインスポーツ「TRX850」用エンジンで初採用した独創の270度直列2気筒は、砂漠での駆動力が鍵となるパリ~ダカールラリーにおいて、1990年序盤ヤマハのファクトリーマシンの研究開発からフィードバックして実用化された技術です。この270度クランクは、合成トルクの山をライダーが感じやすく、しかも鼓動感が楽しめるのが特徴です。これは“軽量・スリム・コンパクト”というスポーツバイクのパワーユニットの必須要件を集約させたパワーユニットのかたちです。クランク軸を90度位相させた270度クランク直列2気筒は、当時世界初のフィーチャーでした。爆発間隔は270度、450度をくりかえし、直列2気筒エンジンながら90度Vツイン同様の爆発間隔を達成。小型設計エンジンによる軽快な走行性と、優れた駆動力&パルス感を両立させました。ちなみに現在では、「Super Ténéré」、「TDM900」に継承されています。
クロスプレーン型クランクシャフト
#以下ヤマハの技術資料より抜粋
スロットル操作に対し、よりリニアに駆動力を引き出すシステム
■背景
高回転型直列4気筒エンジンを搭載するスーパースポーツにおいて、コーナーから脱出するときに求められるリニアなコントロール性に寄与し、優れたコントロール性能をもたらすメカニズムです。
■仕組み・特徴
ピストンに働く慣性力は回転中のクランクの位置(角度)によって異なり、クランクピンが上半分を回るときは上向き、下半分を回るときは下向きに働きます。またクランク回転を増速させる領域と減速させる領域があります。クランク回転速度は、増速から減速に移る上死点と下死点で最も速く、一方減速から増速に移る90°と270°では遅くなります。
この回転変動がクランク1回転で2回発生し、慣性トルク変動となります。180度クランク4気筒では、1・4番、2・3番の各コンロッドとクランクが同様に動くので、回転変動の増/減速領域も倍になり、慣性トルクの変動は4気筒分で4倍となります。
そこで遅いクランク回転をする気筒と、速いクランク回転の気筒を互いに連結するのが「クロスプレーン型クランクシャフト」の仕組みです。
ヤマハは、1)クランクシャフトの高精度での設計・製造、2)1次偶力バランサーの最適設計、3)気筒別燃料噴射マップとギア別のYCC-T開度マップ、などの技術を集約することで、このシステムを市販車用に実用化しました。なおこのシステムにより、各気筒の爆発は通常の直列4気筒の180度等間隔爆発ではなく、「270度・180度・90度・180度の不等間隔爆発」となり、点火順序も4気筒二輪車で一般的な「1・2・4・3」ではなく「1・3・2・4」となります。なお、M o t o G Pマシン「YZR-M1」も2004年型以降はこのクロスプレーン型クランクシャフトを搭載しています。
ストレート6のクランクシャフト
V8エンジンでのクロスプレーン&フラットプレーン・クランクシャフト