Tales of Cams, Vales, & Combustion chambers Vol.1 キーとなる要素は、「燃焼室の形状」、「バルブの駆動方式」、「バルブの数」の3つで、これらは極めて高い相関関係がありますが、これらの相関を一般論としてまとめるにはあまりに複雑なため、以下の実例を通して具体的にご説明していきたいと思います。
[ 1 ] サイドバルブ・2バルブ
まず最初は、サイドバルブ(SV)です。もっと原始的なバルブ駆動方式で、名前の通り、バルブがシリンダの横にあります。構造上の制約で、バルブの数は吸気、排気それぞれ1つずつの計2個しかありえません。
バルブがシリンダ側にあるため、シリンダヘッドは、2ストロークと同じ、プラグ穴のあるフタに過ぎません。画像はそのフタが外された状態です。
原始的、と書いたのは、実用されていたのはいいとこ1950年代までで、現代ではまず使われない方式ゆえです。利点がないわけではないのですが、その利点も欠点を覆い隠せるほどではないため、新しいバルブ駆動方式の普及とともに消滅していったのです。というか、SVの欠点を解決する目的で新しい方式が考え出されたと言った方が適切かもしれません。
ちなみにSVの利点は、まず構造がシンプルであること。これは生産性の高さ、製造コストの低さ、故障発生率の低さにつながります。またヘッドがただのフタのため、エンジン高を低く抑えることができます。これはエンジンルームのスペース効率の他、運動性に深く関係する車体の重心の低さ、に寄与すると思います。
一方、その欠点ですが、これはこの後に話していく主軸に関係することになります。一言で言えば、効率が致命的に悪い、のです。すべてはそのバルブの位置に起因することで、バルブ位置から決まる燃焼室の形状が、否応なしに広く長くなるため、またいびつになるため、以下の熱力学的、流体力学的な問題が発生します。
(1) 異常燃焼が起きるため、圧縮比をある程度以上から上げることが難しい (2) 燃焼室の表面積が大きいため、熱損失が大きい (3) 点火プラグから燃焼室末端までの距離が長い=火炎伝播にかかる時間が長い(混合気の燃焼速度が遅い) (4) 吸排気の流れが悪い つまりエンジン性能を突き詰めていくにあたり、限界が早々と現れる、ということです。以後現れる新しいバルブ駆動方式とそれによって形作られる燃焼室は、以下の理想をできるだけ高めていくものとして考案、改良されていきます。
(1) 高い圧縮比を維持しつつ異常燃焼が起こりにくい形状 (2) 熱損失が少なくなるよう燃焼室の表面積をなるべく小さくする (3) 点火プラグからの火炎伝播距離の短さ(混合気の速い燃焼速度) (4) 吸排気の流れの改善、スキッシュ、スワール、タンブル効果が期待できる形状 [注1]スキッシュ
吸排気バルブの外側の燃焼室とピストントップとの間隔を接触するほどに狭くした範囲(スキッシュエリア)をとると、圧縮の際、シリンダー中央や点火プラグの電極周辺に一気に混合気が寄せられるようになり、燃焼速度を速くすることができます。
[注2]スワール(横渦流)・タンブル(縦渦流)
吸気ポートを通って燃焼室に流入した混合気は、シリンダー内で旋回流として運動するが、その流れの向きや大きさをうまく使うことで、燃焼効率の改善につながることが分かっています。流れの向きが、ピストントップ面に対し、並行成分ものをスワール、垂直成分のものがタンブルと区別します。(全体としては、スワール成分とタンブル成分が合成された流れとなります)
GASGAS TXT PRO Side Valve engine
Revolutionary single-cylinder 4-stroke, 350cc side valve engine Liquid cooled Battery-less Kokusan ignition and fuel injection systems Wet sump rngine lubrication ここで余談になりますが、なんと21世紀になってから、サイドバルブのエンジンを新設計してきたオートバイ・メーカーがあります。トライアル車の有力メーカー、スペインのGASGASがそれです。
トライアル車においては、高回転に不向きなサイドバルブはネガとはならず、その低重心は重要な車体要素なのでしょう。またサイドバルブの出力特性が、リアタイヤにトライアルに適したトラクションを与える、という副次(主?)的な効用もあるようです。
2012 GASGAS TXT PRO 300
LH:2009 model / RH:2012 model
コンペティションモデルだから当然とはいえますが、2009モデルと2012モデルのエンジンを比べると明確に設計が変わっていることに驚かされます。
他、技術的に、バッテリーレスでインジェクションを装備している点は興味深い点です。
サイドバルブのハイコンプ?
下の画像はウラルM72という旧ソ連製のオートバイのヘッドです。サイドバルブなのでまさにフタそのものですね。(後述しますが、ウラルM72はBMW R71 (1938-1941)のコピーバイクなのです)
興味深いのは上と下の違いで、圧縮比が異なります。上が 5.5:1、下が 6:1 。圧縮比の差 0.5 分は、プラグホール下側のアルミの盛りの量で調整されているわけです。
当たり前、といえば当たり前の話なのですが、サイドバルブのエンジンを知らない世代としては、なんというか、その即物的な対処方法が新鮮に映ったわけでして・・・(少なくとも私にとっては)
サイドバルブのエンジンチューニング方法に関しては、独自の世界がありそうで、機会を見つけて調べてみたい次第です。(ちなみに下の画像の燃焼室内に見られる3つの円状の浮彫は、燃焼室内の混合気に乱流を起こし、燃焼あるいは吸入効率を高めるためのもの、と見受けましたが、果たして・・・)
以上で本題は終わりまして、以下は本題より長い余談となるのですが、上のウラルM72の基となったBMW R71は、ウラルだけではなく、色々なメーカーからコピーされたという歴史的事実についてお話したいと思います。
1938-1941 BMW R71
第2次世界大戦は、ドイツ軍がポーランドに侵攻を開始した1939年9月1日から始まったとされていますが、ドイツ軍はオートバイ隊を編成、民生用オートバイを軍事用に転用し、伝令や斥候任務、士官の移動用に大活躍させました。オートバイの機動性がもたらす軍事上のパフォーマンスの想像以上の高さに驚いたのが、その敵国であるアメリカ合衆国やソ連でした。
R71はその頃のBMWのラインアップの中で、最新の足回り(前テレスコピック式・後プランジャー式)と最大の排気量(750cc)を持つモデルでありました。(より高性能なOHVヘッドを持つモデルはありましたが、排気量は500ccでした)
1938-41 BMW R71
Sidevalve 750cc Boxer - 22 bhp
1942-1946 Harley-Davidson XA (eXperimental Army)
意外にも?、R71のコピーを行った国のひとつはアメリカ合衆国でした。軍部は、ハーレーダビットソン社とインディアン社にR71を範とした軍用モデルの開発を依頼したのです。すでにハーレーには民生用WLを転用したWLAという軍用バイクがありましたが、軍部は、冷却性の優れる対向シリンダーエンジンと耐久性やメンテナンス性の高いシャフトドライブを持つオートバイ(まさしくBMWそのもの!)が必要だと思ったようです。
その要求に対するハーレーの回答は・・・ハーレーはR71のエンジンと駆動系をコピーしたのでした。(R71はヨーロッパ車なので当然、メトリックの規格で造られていますが、インチの国アメリカで、それはそのまま採用されたのでしょうか?今日、XAのレストアには、R71の完全なコピーであるウラルM72のパーツが流用されることもあるようで・・・)
現在の価値観では、コピーと言うと聞こえは悪いですが、戦時下という緊急事態の中においては、独自性にこだわり冒険するよりも、良いものがあるならそれをそのままコピーした方が、たとえそれが敵国のものでも、否、むしろ敵国のものだからこそなお良し、と考えたというのも納得がいきます。
1942年に完成したXAは1946年までにわずか1000台程度造られ、そのほとんど全数が北アフリカ戦の支援として送られたとのことです。現在、XAはビンテージハーレーの中でもレア中のレアと認められています。
1941-1943 Indian 841
一方、インディアンも、モデル741を転用した軍用バイクを有していましたが、軍の依頼を受け、R71を範とする対向シリンダー&シャフトドライブを持つバイクの開発を行いました。インディアンのアプローチはハーレーとは違うものでした。インディアン製エンジンは、R71と同じ縦置きクランクを有していましたが、そのVツインの挟み角はR71の180度とは異なり、90度となっていました。
ヘッドのサイドバルブ機構は自社Vツイン・741ともR71とも共通するものでしたが、841のボア x ストローク 73 x 89 mm(排気量737cc)は、R71の 78 x 78 mm (746cc)とは異なっており、自社のサイドバルブVツイン、スポーツスカウトで実績を残している値を採用しています。
841の生産台数ですが、こちらも少なく、1941年から1943年までの3年間で約1100台とのことです。
なぜXAも841も、それぞれ1000台と言う決して多くはない生産台数で終わったのか・・・それらは失敗作だったというよりも、同時期により素晴らしい競合が登場したためでした。かの有名なウイリス社のジープです。
1941年から45年までに約30万台以上造られたジープは、サイドカー以上の走破性、機動性をもって、連合軍を勝利に導いた影の立役者であったといっても過言ではないでしょう。
1941- IMZ M72
ナチス・ドイツと対峙していたソ連は、独ソ不可侵条約が存在していたとはいえ、いずれドイツとの戦争は予想されており、ドイツ機甲師団の電撃作戦を目の当たりにし、機動性の高い軍用オートバイの必要を感じていました。ソ連は同盟国であるアメリカからのオートバイ供給を期待していたのですが、それがいつになっても実現しないことに業をに煮やし、自国での生産に踏み切ったという経緯があったとの説も見受けられますが真偽は不明です。
なんにせよ、アメリカもベンチマークとした BMW R71のコピーを生産することが決まり、中立地帯であるスウェーデンから極秘裏にR71本体(とその図面)がソ連に送られ、全てのパーツをコピーすべく、リバースエンジニアリングが行われたということです。
1941年には試作車が完成し、量産が決定されます。生産を担当することになったのは、IMZ(Irbitskiy Mototsikletniy Zavod)社で、モデル名はM72とされました。
さらにソ連は、大戦後、占領したドイツからオートバイ製造に関する設備、資料、技術の一切を接収することができ、R71の後継車であるR75がIMZのラインアップに含まれるようになりました。
IMZは現在、ウラルモト社として、創業以来から変わらずBMW R71、R75のコピー、およびその独自改良版を造り続け、ヨーロッパ諸国へ輸出もしています。(この辺の権利関係が放置されているのは不思議な感じがしますが、敗戦国ドイツの、ソ連に対する賠償のひとつと捉えられているのでしょうか?)
M72のエンジン
M72(上)とR71(下)のエンジンカット図
ちなみにM72の誕生からン十年後、そのエンジンを使って、市井のモノ好きによって、このようなドラッグレーサーが製作されています。エンジン2丁掛け・・・といっても、ワーゲン同様のフラット4になっただけですが・・・を、スーパーチャージャーで過給。いったい出力はいくらになったんでしょうか?(サイドバルブは低圧縮比なので過給機との相性はいいのかも?)
1957- 長江 CJ750 M1
長江CJ750は、中国版BMW R71のコピーバイクとして知られていますが、IMZ M72の正式なライセンス製品であります。(コピー品の正式ライセンスというのもおかしな話ですが・・・)第二次世界大戦後、中国はツュンダップKS500のコピー車を生産していましたが、いささか旧式すぎるということで、新たにソ連から、IMZ M72の生産プラントおよびその関連技術一式を購入することになったのです。
1957年に量産第一号が完成しますが、意外なことに、エンジンはM72のそれをそのままノックダウンすることなく、一部、中国独自に設計し直しているということです。(製造は、江西洪都摩托車製造廠)
1941-1944 BMW R75
以上、R71のことを散々書きましたが、実のところ、第2次大戦中、活躍したのはその後継であるR75の方でした。1941年から1944年までの3年間で16,500〜18,000台程度が生産されました。(R71は3500台弱)
R71は民生品を軍用としたものでしたが、R75は最初から軍用目的のみにて設計されました。それゆえ兄弟車といえるツュンダップKS750とはパーツの70%を共有しているとのことです。
田宮もKS750とR75をセットでキット化しています。
R75をなにより有名な存在としたのは、優れたサイドカー付オートバイだったということ。それを実現したのが、サイドカー付きで運転するのに適した後輪のギアケース内のデファレンシャルギア・ロック機構、および、走破性を高めるためにカー側のホイールにもギアケースから出されたドライブシャフトで駆動力を与えるという機構でした。
ギアは4速で、悪路用と整地路用のギア比選択ができ、バックギアの設定がありました。
サイドカーのサスペンションはトーションバー式とリーフスプリング式の2種類があり、カー側にもオートバイ用としては世界初の油圧式のブレーキを装備していました。
実のところ、これらの装備は、R75よりも早く1940年から生産されていた兄弟車のKS750に採用されていたもので、それがR75にも転用されたわけですが・・・
九七式側車付自動二輪車
R75のサイドカーに合わせて、取り上げないわけにはいかない車両があります。それは日本の九七式側車付自動二輪車です。分かりやすく言えば、陸王のサイドカーです。
陸王はハーレーの正式ライセンスを受け、1933(昭和8)年より日本で生産されたフラットヘッド(サイドバルブ)のハーレー(VL1200)そのものでしたが、そのサイドカー仕様は、当時、陸軍で使用されていた米本国ハーレー製のそれと代わって、1933(昭和8)年、九三式側車付自動二輪車として制式採用されました。九三式というのは、1933年は皇紀2593年にあたるゆえです。
九三式に、独自のカー側のホイールも駆動するシステムを付与したものが、1937(昭和12)年、陸軍に制式採用された九七式側車付自動二輪車です。
上で書いたとおり、BMW R75やツュンダップKS750のサイドカーも同じ駆動システムを有していましたが、九七式の方が世に出るのは早く、世界初の二輪駆動式サイドカーの栄誉を有しています。あまり世に知られていないような気がするのは、生産台数のせいか、活躍の度合いか、完成度の問題か・・・
[ 2 ] OHIV・2バルブ
サイドバルブの致命的な欠点が燃焼室の広さで、その原因がバルブの配置であれば・・・バルブの位置を変えてみよう、さてどこに移すか・・・そんなにたくさんの選択肢があるわけではなく、ピストンの上にもって来よう、という発想になるのは極めて自然といえましょう。SV(サイドバルブ)ではクランクのそばで動くカムが直接バルブを動かしていたのですが、バルブはピストン上に移ってしまったので、長い棒(プッシュロッド)を介して遠隔操作することにしよう・・・これがよく知られたOHV(Over Head Valve)です。
今回、あえて話題にしたいのは、SVからOHVに移行する中に存在した、IN側バルブのみヘッドの上部に持ち上げて、EX側バルブはサイドバルブのままというバルブ機構です。
OHIV (Over Head Inlet Valve)あるいはIOE (Inlet Over Exhaust)と呼ばれます。アメリカ人は、Fヘッドとも呼びますが、現代に生きるたいていの人はなんのことだか分からないでしょうね。
なぜFヘッドと呼ばれるのか・・・まず、SVエンジンはシリンダー+燃焼室の形状が、横から見ると逆L字型をしているのでLヘッド(あるいはLブロック)呼ばれています。OHIVエンジンは、SVの逆L字形状の上に、インレットバルブ分の逆L字がさらにもう一つが重なった形状、すなわちF字型をしているのでFヘッドと呼ぶとのことです。
画像のヘッドをご覧ください。これは並列4気筒エンジンです。OHIVですから、画像に写っている4つのバルブはすべてIN側バルブ (小さな穴はプラグホール)です。
残りの4つのEX側バルブはシリンダ側にあるのです。(OHIVを知らない人だと、変わった形の燃焼室を持った並列2気筒のヘッドと誤解してしまうかもしれません。)
OHIVは決して特殊な機構だったのではなく、いろいろなメーカーの、特に黎明期のアメリカ製オートバイの量産エンジンに好んで採用された経緯を持ちます。しかし、所詮、過渡期の仕様に過ぎず、現在では完全に姿を消しています。
HARLEY DAVIDSON “F-HEAD” Engine (1917)
最初のハーレー(1903年)は、OHIVで登場し、以来30年間、OHIV(Fヘッド)のエンジンばかりを造り続けていたのですが、なぜか次世代エンジンにはSV(フラットヘッド)が採用され,、OHIV方式は淘汰されました。これは退化なのでしょうか?まもなくOHV(ナックルヘッド)を持つエンジンが登場するのですが、それでもフラットヘッドエンジンは消滅することなく、驚くべきことに1974年まで生産されることになります。
画像を見ると、インレット側のプッシュロッド、マニホールドのレイアウト、エキゾーストパイプのシリンダーからの出方などOHIVエンジンの特徴がよくわかると思います。
FN Type A Engine (1905)
この363cc4気筒はベルギーのFNによるものです。左はじのキャブレターからデリバリされるマニホールドの形状からOHIVであることが明らかです。
なお、FNは英国のBSAなどと同じく銃器メーカーとして設立され、のちにオートバイ製造にも手を染めるようになりました。会社は1901年から1967年まで存続し(銃器メーカーの方は現存しています)、世界で初めて4気筒エンジンを積んだオートバイを生産したメーカーとして歴史に名を残しています。
SV vs OHIV
SVとOHIVの興味深い比較があります。
画像のジープは戦後の民生型で、左がCJ-3A (1949 - 1953)、右がCJ-3B (1953 - 1968)と呼ばれるものです。CJ-3AのエンジンはSVでしたが、それにOHIVヘッドを換装したエンジンを持つのがCJ-3Bです。CJ-3Bは、OHIVゆえエンジン全高が上がったため、それを覆うボンネットも高くなっているのが分かります。(それに対し、わざわざ”high-hood”と愛称をつけてたりしてします)
さて何が興味深いかというと・・・CJ-3Aのエンジン(L-134・通称ゴー・デビル)とCJ-3Bのエンジン(F-134・通称ハリケーン)、両者のボア、ストロークとも同一で、ゴーデビルのSVをOHIV化したものがハリケーンエンジン、つまり、両者のスペックを比較することで、SVからOHIVに変更した場合、どれだけ効率が上がるかが分かるわけです。
L-134 “Go Devil” F-134 “Hurricane” Valve Layout SV OHIV Bore x Stroke 3 1/8 in. x 4 3/8 in. (79.37 mm x 111.12 mm) Displacement 134.2 ci (2.2 L) Compression Ratio 6.48:1 6.9:1 Horsepower 60 HP @ 4,000 rpm 72 HP @ 4,000 rpm Max Torque 105 lb/ft (14.5 kgfm) @ 2,000 rpm 114 lbs. ft. (15.7 kgfm) @ 2,000 rpm いかがでしょうか?ちなみに、CJ-3A、CJ-3Bとも、当時、ウイリス社のライセンスを持っていた三菱によって、車体もエンジンも国産化されています。つまり、日本製・量産OHIVエンジンが存在していた、ということです。
Rover's sophisticated OHIV
最近、消滅した英国のローバーは1948年から1980年代半ばまで、30年以上もの間、OHIVエンジン(2.6リッター直列6気筒)を作り続けたメーカーです。(そんなんだから消滅したともいえる?)ただし、ローバーのOHIVはかなり洗練されたものでした。
それぞれのバルブは、より効率的な燃焼室形状となるよう傾斜をつけて配置されており、それに併せてピストン頂部の形状も変化がつけられています。これらから形成される燃焼室は逆半球形状(inverted hemi-head)と呼ばれています。(後述しますが、半球というのは理想的とされる燃焼室形状のひとつなのです)
ここまでできてなぜOHIVなの?と言いたくなるようなレベルの出来で、ロールスロイスの傑作航空機エンジン、マーリンを生んだ英国の、戦後間もない頃でまだまだ世界の自動車設計・生産技術をリードしていた英国の、発想力の高さ、それを形にできる技術力の高さを垣間見れる造りとなっています。
Exhaust Over Inlet by Indian
ハーレー同様、アメリカの黎明期オートバイメーカーの例に漏れず、インディアンも初期モデルから IOE (OHIV) を採用し続けていました。
1928年から登場したインディアンの特徴的な並列4気筒エンジンも、1936年および1937年を除いて、すべて IOE が採用されています。さて、それでは1936年、37年モデルのみ、どういったバルブレイアウトが採用されていたのでしょうか?
それは EOI と呼ばれるものです。EOI (Exhaust Over Inlet)は文字通り IOE の逆のレイアウトを意味します。実際、どうなっているのかは画像を見るのが手っ取り早いでしょう。
EOI を採用した理由は、霧化した混合気がエキゾーストの熱にさらされにくくなるためで、パワーアップにつながる、というものでした。実際、IOEからEOIに変更したことで、同じ1265ccの排気量で、30馬力から40馬力と30%以上もパワーアップを果たしています。
しかし、ヘッドが熱くなりすぎ、エキゾーストバルブのリンケージの調整が頻繁となるため、1938年モデルでは元の IOE に戻されました。(実際は右足が熱くてしようがない、というクレームが原因ではないかと・・・IOEでも十分熱いか)
きわめて短期間ではありましたが、EOIというバルブレイアウトが量産エンジンとして実在した、というお話でした。
OHIV Conversion Kit for FORD Model A&B
1931 Ford Model A
フォードの 1928 年から 31 年まで製造された Model A および 1932 年 34 年まで製造された Model B のサイドバルブエンジンのヘッドを OHIV に変更するキットが現在のUSで売られています。
その名も、『Roof 101 Cyclone OHV』 (キット製作者はOHVを主張していますが、正確にはOHIVでしょう)
本体 $4,650、マニフォールド $280、配送手数料 $100 の合計 $5,030のキットの装着で、ノーマルの直4・3.3L・SVエンジンの公称40馬力から、倍以上の94.3 馬力を絞り出すようになる、とあります。
画像を見るだけでも、なかなかの作りの良さがしのばれます。
燃焼室には3本の、ヘッドとシリンダーの合わせ面には2本のグルービングが入っていますが、これらをそれぞれ、"Singh" タービュランスグルーブ、および"FireWire" グルーブと称し、混合気のスキッシュ効果とガスケットの吹き抜け防止効果があるとうたっています。
さらには、恐れ多くも、In fact, "the Roof 101 Cyclone breaths better than many NASCAR racing engines." (実のところ、ルーフ101サイクロンは多くのナスカーレーシングエンジンよりもすぐれた吸入能力を持つ)と公言しています。
1931 Ford Model A Engine
Converted OHIV engine
フォードのモデルTは1908年27までの20年間造り続けられたのに対し、その後継のAは4年、Bは3年しか製造されていません。Tの長命が異例だった言えるのですが、他メーカーとの販売競争が激化した結果、頻繁なモデルチェンジが販売上の戦略として必要になったことの現れに思われます。
この時代のクルマ用カスタムパーツのマスプロ的市場が存在しているところに、USの自動車趣味の成熟をまざまざと見せつけられる思いです。
Tales of Cams, Vales, & Combustion chambers Vol.2
[ 3 ] OHV、SOHC、DOHC
OHV(オーバーヘッドバルブ)は、SVのもつ致命的な欠点を改善するために、燃焼室をよりコンパクトに、より流体的に理想的な形状になるよう考慮されたものです。一般的には、OHVの発展系としてSOHC(シングルオーバーヘッドカムシャフト)、さらに発展したものとしてDOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)、という流れで説明されることが多いですが、OHVもSOHCもDOHCもバルブが燃焼室の上で動いているという点で違いは無く、この稿では特に区切りをおかずに論じていきます
私は、OHV、SOHC、DOHCの変遷は、より高いエンジン回転数(=効率=エンジンパワー)を実現するために、パーツの慣性重量を低減させるといった要求に対し、必然といえる単純な機械構造の変化に過ぎない・・・SVからOHVに変わったときほどのドラスティックな変化は無かった、と考えています。(実際、SVは消滅しましたが、21世紀の現在において、OHV、SOHC、DOHCのエンジンは共存しています)
ただし、たとえばDOHCでなければ実現しなかった燃焼室の形状、バルブの数があるという事実は厳然と存在します。そういう点で、カムシャフトの位置と数も、燃焼室形状とバルブの数に関係していることを否定するものではないことをあらかじめお断りしておきます。
( a ) 2バルブ
ウエッジ型燃焼室
燃焼室の形状が楔(ウエッジ)形状をなしているものをいいます。 吸排気バルブがシリンダーヘッドに対して斜めに配置されるため、カウンターフローエンジンにおいては吸排気ポートの曲がりがゆるやかに設計でき、圧縮比もバスタブ型と比較して高く採ることが可能となった。クロスフローエンジンにおいては、後述の多球型燃焼室が登場するまでは主流の形式であった。
Wedge
キドニー/ハート型燃焼室
Nissan L
バスタブ型燃焼室
サイドバルブからOHVに移行した初期の段階で登場した形式で、燃焼室形状は文字通り洋式の浴槽のような長方形の形状を採っている。 吸排気バルブはシリンダーヘッドに対して垂直に配置されるため、機械加工が容易で最低限の設計変更でサイドバルブをOHV化可能であったため、多くのエンジンでこの形式が採用された。しかし、燃焼室内の乱流形成が比較的容易な反面、燃焼効率に劣るため、次第に後述の形式に改良されていくことになった。Ford Kent unit tuned by Cosworth
Chevrolet Corvette
Bathtub
ヘロンヘッド
Ford Kent unit - crossflow
MAE for formula junior - Kent unit tuned by Cosworth
Mercedes Benz OM602 - straight-5 diesel
Volks Wagen VR6 head
BRM V12 head
Chevy 348
半球型燃焼室
燃焼室の形状が球状をなしているもの。 クロスフロー式シリンダーヘッドの登場と共に現れた形式で、燃焼室の面積を大きく取ることが出来るためにシリンダー内の冷却効率が良く、燃焼の圧力が均等に広がる流体力学的に理想的な形状のため、今日まで多くのエンジンでこの形状が使用された。 しかし、欠点として燃焼室内の流体の流れる効率が良すぎる故に乱流の形成が行いにくいという点が挙げられ、一部のエンジンでは吸気バルブ以外にごく小さな補助吸気バルブをおくなどの手法で乱流を強制的に引き起こす対策が採られることもあった。(三菱・MCI-JETバルブなど) また、大きな半球形状を取った場合、圧縮比を高めていくにはピストン側のピストントップを大きく盛り上げる加工も不可欠であったため、ピストン側の重量増加を嫌った設計者によっては、後述の多球型燃焼室を採用して燃焼室の燃焼効率低下を最小限に抑えながら、ピストンの軽量化と同時に圧縮比を高める手法が採られることもあった。 DOHCやSOHCマルチバルブの登場で吸排気バルブ2本ずつの4バルブ構成が登場してくると、平たいポペットバルブの先端で半球の形状が崩れてしまいやすいことや、半球の曲線に合わせてバルブを配置するとバルブ挟み角が極端に広くなってしまいがちなことから、マルチバルブエンジンでは後述のペントルーフ型が主流となっていった。DUCATI SOHC 2valve head
Nakajima Sakae
Lotus Twincam Big valve
BMW OHV 2valve
BMW OHV 2valve
TOYOTA 2TG head
Hemi
多球型
フォード・302エンジンの4.9L V8シリンダーヘッド。 燃焼室の形状が半球を複数組み合わせた形状を呈しているもの。多くの場合吸排気バルブと点火プラグにあわせて3つの半球を置くことが多かったため、燃焼室はハートの形を呈し、ハート型燃焼室と呼ばれることもあった。 半球型に比べて若干流体力学的には不利な形状であるが、ピストントップを大きく盛り上げることなく圧縮比を高くとることが可能であり、乱流の形成も比較的良好であったことから、吸気1・排気1の2バルブ構成を取るシリンダーヘッドではOHV、OHC、ターンフロー、クロスフローの別なく幅広くこの形式が採用された。 また、バスタブ型燃焼室や楔型燃焼室をプライベーターがチューンする際にもこの形式の燃焼室は多用された。具体的には元の燃焼室を一度アルゴン溶接などで埋めてしまい、改めて吸排気バルブ周辺にスキッシュエリアと半球を形成するように削り直すのである。ペントルーフ型燃焼室
吸排気バルブの設置角度(バルブ挟み角)が狭くなればなるほど、ペントルーフの頂点は平らに近づいてゆき、圧縮比が高まる事になるDOHCやSOHCのマルチバルブエンジンの登場と共に登場した形式。4本の吸排気バルブの先端形状に合わせて、建物の屋根のような三角形の形状を呈した燃焼室である。 半球型に比べて若干流体力学的には不利な形状であるが、点火プラグを吸排気バルブの間に配置出来るセンタープラグが容易に実現でき、火花の伝搬効率が非常に良くなることや、バルブ挟み角を狭く取ることで三角形の頂点を低くして圧縮比を高めることも可能で、カムシャフトの間隔を狭めることでDOHCシリンダーヘッドの小型軽量化も可能となることから、現在のガソリンエンジンの主流と言える形式となっている。HONDA Fit/Jazz
Tales of Cams, Vales, & Combustion chambers Vol.3 ( b ) 3バルブ
DUCATI ST3
DEAWOO MATIZ
Maserati
Mercedez
SUZUKI
Tormax
3 valve Heron haed
FORD VM25T
( c) 4バルブ
DUCATI 748R
HONDA RFVC
1981年にホンダ・XR500Rに採用したRFVC(Radial Four Valve Combustion Chamber/放射状4バルブ燃焼室)
BMW SOHC Radial 4 valve
OHV 4 valve by Kawasaki
直噴
Cosworth DFV
Cosworth DFR
Cosworth SCA
Cosworth FVC
Cosworth BDA
Cosworth BDG
Cosworth VQ35
Cosworth tuned NISSAN VQ35 CNC Ported with big valve
Cosworth Duratec/MZR
Duratec / Mzr with Cosworth Big Valve_
Offey
Offenhauser head
Offenhauser
WESLAKE V12
Alfa Romeo 155
BMW L6
BMW M36
Citroen VTS/VTR
Citroen 1.6L VTS/VTR
?
Vauxhall VX220
Opel Speedster/ Vauxhall VX220
VTE
SUZUKI GSXR600
Hayabusa
1916 Benz BZ.IV
1916 Benz BZ.iv 19 liter water cooled L6 Aircraft engine DOHC 4V 230 bhp@1,400rpm
Bajaj
Krauser
Prince/Nissan S20
TSCC
STDCC ハート型以外の形状の採用例としては、スズキのオートバイ部門が1982年のスズキ・GS125Eから採用したSTDCC(Suzuki Twin Dome Combasjon Chamber/2ドーム式燃焼室)が上げられる。STDCCは点火プラグをセンタープラグとして吸排気バルブの中間に配置し、吸排気バルブを中心に2つの半球を並べることで、ダルマに似た形状の燃焼室が形成された。STDCCは主に2バルブエンジンに対して広く採用されており、燃焼室内の乱流の形成が良好な事から低速域での粘り強いトルク特性と高燃費の獲得に貢献した。 TSCC STDCCは1980年のスズキ・GSX750Eに導入されたTSCC(Twin Swirl Combasjon Chamber/2渦流式燃焼室)がベースとなっている技術である。TSCCはDOHC4バルブエンジンに多球型燃焼室の概念を持ち込んだ事例であり、吸排気バルブを中心に4つの半球が組み合わされ、ダルマが二つ並んだような形状[1]を示す事になる。TSCCは後述のペントルーフ型燃焼室と組み合わされたニューTSCCに発展し、現在のスズキ・GSX-Rシリーズにも引き続き採用され続けている。
Suzuki Tscc & Tdcc
TSCC
Twin swirl Combasjon chamber
それぞれ対面するバルブ同士で繭型燃焼室が二つ疑似的に構成される。
TDCC
Twin Dome Combustion Chamber
TDCC is called "Twin Dome Combustion Chamber" and celebrated in 1981 at the GS 650 G premiere.
It was based on the experience of TSCC technology for four-valve engines. Place in a single hemisphere, the two valves in separate domes (Dome) are accommodated.
With this trick, the combustion chamber is smaller and has two large pinch-for an even better mixture duct and turbulence.
In addition, flat pistons are used which are much easier to reduce the reciprocating masses and allow (in theory) more speeds . Together with a high compression an optimum combustion results in particularly good filling. By these measures, the efficiency of the engine is improved, which leads to a low fuel consumption.
The TDCC cylinder head with a separate air intake system is an evolution of the TDCC principle and was later used in the two-cylinder GR 650.
The engine is tuned to a very lean mixture can be processed. Normally this is very unwillig and so Suzuki engineers had to reach into their bag of tricks again.
A separate suction nozzle is fed to the combustion chamber from the carburetors richer mixture. This creates a vortex at high speed and the combustion takes place more easily and faster. The GR 650 is so effective and economical.
Pneumatic Vvalves
Cosworth CA2010 formula 1 engine
RUDGE 4valve
1912 FIAT - DOHC 2valve
1912 Peugeot L76 - DOHC 4valve
Rolls Royce Merlin
T34 Diesel engine - DOHC 4valve
Tales of Cams, Vales, & Combustion chambers Vol.4 ( d ) 5バルブ
5 valve
YAMAHA GENESIS
TOYOTA 4AG
AUDI
Ferrari F3555 valve
( e) 6バルブ
Maserati 6valve
Romanelli 6V: DUCATI head conversion
BMR 6V with SUZUKI's crankcase
( f ) 7バルブ
YAMAHA 7 valve - Experimental
( g ) 8バルブ
HONDA NR
HONDA NR
( h ) 珍品! 1バルブ